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悪魔のように非情な男が純愛に目覚めるまで ~後編~

フルえもんがmixiの「彼女が好きすぎてたまらない」コミュニティに入会してから数週間後、同じく中学時代の友達が結婚したということで、そのお祝いにみんなで集まった。 

トビタは朝から、フルえもんの変化について知りたくてたまらない。
本当に彼は普通の男になったのか? 純愛に目覚めたのか? トビタはフルえもんの行動を観察し続けた。

その結果、彼は明らかに変わっていた。
例を挙げると、トビタは先にフルえもんと二人で落ち合ったのだが、彼は「お祝いの品を買っていった方が良いんじゃない?」と、以前では考えられない発言。不真面目なトビタは「ああ、確かにそういう笑いは必要だね」と、結婚祝いにアダルトグッズというベタなボケに走り加藤鷹の右手を再現したエログッズを購入。「さて、行こうか」とフルえもんに言うと、引きつった笑いを浮かべ「いや、マジメなのも買わなきゃダメだろ」と、さげすんだ目で言ってきた。
そしてシャンパンを買った。

あのフルえもんに叱られてしまった。
大学4年のとき、押入れの中から「就活なんかやめちまえ」と言ってきたニヒルなフルえもんはどこへ? 
お葬式にドレッドヘアで来て、昔の担任に気を遣われてしまったフルえもんはどこへ?
結婚式で、スーツの下に紫の靴下を履いてきたフルえもんはどこへ? 
 
いよいよ我慢できなくなったトビタは、ついにmixiの件を聞いた。

「え、ああ、あれか…あれは、その、あのさ、知らない間に彼女が俺のページにログインして、それでその、勝手に入会しやがったんだよ。ああ、そうなんだよ」

質問したコッチが申し訳なくなるくらいの焦り具合。
そして「もう二度と触れてくれるな」という顔をして、さらに強引にiPodのイヤホンをねじ込んで、質問拒否の姿勢を取ってしまった。
トビタは確信した。この男は確かに、純愛に目覚めたのだと。

結婚した友人は遠くに住んでいるので、トビタとフルえもんは一緒に高速バスで移動したのだが、その道中、隣りで寝たフリを決め込んで質問拒否の姿勢を貫くフルえもんを横目に見ながら、トビタは考えた。
なぜ、フルえもんはここまで変わったのだろう。

そもそもフルえもんが非情になったキッカケは何なのか。色々考えたが、おそらくそれは中学2年のとき、みんなでフルえもんの家に泊まった夜の出来事が関係していると思う。

その当時、俺たちはふざけてフルえもんの兄、つまりアニえもんの部屋に勝手に侵入していた。フルえもんも「変なことするなよ」とホストらしい頼もしさで許してくれていた。
そしてその夜、たまたまアニえもんのベッドにエロ雑誌が置いてあるのを発見してしまったのだ。

これには一同、大興奮。
というか、この瞬間のためにアニえもんの部屋に忍び込んでいるようなもの。トビタたちはいきり立って、開いてあったページを覗きこんだ。

でもその瞬間、この夜の思い出は悲劇へと変わる。
だって、開いてあったページがスカトロ特集だったんだもん。
スカトロの気持ち悪さ以上に「アニえもんがこれを見ていた」という事実が、中学生にはあまりに衝撃だった。

あの夜、フルえもんはずっと無言だった。

その日以来、フルえもんは人を信用しなくなってしまった気がする。仕方がない。兄がスカトロ好きだと知ってしまったのだから。姉にオナニーを目撃されるくらいショックだ。

それからというもの、アニえもんの話は禁止になり、ウンコ関係の話もダメ。
さらに「スカす」や「大トロ」など、スカトロを意識してしまう語句も使用禁止となった。

もし本当にフルえもんが人としての温かさや優しさを身につけるのだとしたら、それはきっと、あのスカトロアレルギーを克服したときに違いない。
結婚の祝福(ただの飲み会)を終え、翌日またもバスで帰っていたトビタは、隣りのフルえもんを見ながらそう思った。

そしてその通り、フルえもんは確かにスカトロの呪縛を乗り越えていた。

それが判明したのはバスに乗る数時間前。トビタがうっかり「やべ、ウンコ出る」と小声で言いながらトイレに向かったときのこと。
昔のフルえもんなら“ウンコ”と聞くとそれから2時間は無口になったのに、あの日はなぜか笑顔で「おう、行ってこいよ」と送り出した。

良かった。本当に良かった。フルえもんにこんな日が来るなんて。
友人の結婚はもちろんめでたいが、フルえもんが普通の人になれたことも同じくらいめでたい。

ウンコを出そうと公衆便所で踏ん張っていたら、同時に嬉しさがこみ上げてきた。

もうフルえもんに気を遣う必要はない。トイレから戻ったトビタは、臆することなく「下痢だったわ」といった。
するとフルえもんは「飲んだ次の日って、確実に下痢だよね」と笑って返してくれた。
本当に嬉しかった。こんなゲスなやり取りが、夢のようだった。

だけど、気になったことが一つある。それは、下痢だったことを報告してからフルえもんが妙にニヤけていたことだ。
いや、もしかすると気のせいかもしれない。嬉しさのあまり、ニヤけているように見えただけかもしれない。
でも、もし本当にニヤけていたのだとしたら、それはつまりこういう可能性があることを示している。

フルえもんはアニえもんのスカトロ好きを克服したのではなく、ただ単に、アニえもんと同じスカトロマニアになってしまった。
だから、トビタの下痢を想像してニヤけた。

可能性としては否定できない。そう考えてみると、下痢について語るフルえもんがイキイキしているように見える。

それでも、フルえもんが普通の優しさを身につけ、純愛に目覚めたのは事実なのだから、もうこれ以上は考えない方が幸せかもしれない。
フルえもんがスカトロマニアでもいいじゃないか。


そう思っていたら、いつの間にか眠ってしまった。
おめでとう、フルえもん。
プロフィール

トビタ シンイチ

Author:トビタ シンイチ
24歳のときに訪れた飛田新地に深く感動。以来、あの地を心の故郷と仰ぎ、風俗にハマる。最近は素人にも興味を抱き、合コンやナンパ三昧の日々を送る変態ライター。
「飛田新地は文化遺産だ!」委員会会長(会員1名、後援会員6名)

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