先週、大阪に行った。
中学からの友達が一人、めでたく大学院を卒業したので、そのお祝いに仲の良い皆で集まったのである。
その日集まったのは5人。そのうち大阪に住んでいるのは1人だけ。
それでも大阪を開催地に選んだのは、他でもない、わが心の故郷・飛田新地に行きたかったからだ。
今回、めでたく卒業を決めたのはY村という男。
2狼した後、大学に進み、さらに大学院まで出たので、俺より4年遅れの卒業となった。
だけど、そんな事はどうでもいい。
それよりも、彼はまだアッチの卒業が出来ていないのだ。
だから、今回どさくさに紛れてY村の息子も卒業させてしまおうと考えた。
とはいえ、浮いた話は一切聞かないY村。
一年ほど前、酔いの席で皆がHなバカ話を披露していた時、
「俺もチューくらいしてえなあ」
と嘆いた男である(たぶん本人は覚えていない)。
そのY村が、いきなり飛田なんかに行って、わずか20分の間に初仕事をこなせるのだろうか。
緊張して機能しなくなることだってあり得る。
「まずは、おっパブから慣らしたほうがいいんじゃない?」
「いや、飛田の美女を見ればたちまちカチンコチンになるはず」
「ていうか、そもそもあいつの性格からしてこんな企画了承しないだろ!」
俺たちは大いに話し合った。なにせ、26年温め続けてきた初体験の瞬間だ。
どうやってY村を説得しようか、そこが大きなハードルだった。
しかし当日、ふざけ気味に「飛田行こうぜ~」と言うと、これがまんざらでもない様子。
いつもは無愛想なY村のことを考えれば、この反応は「OK」と捉えていい。
事実、Y村は躊躇することなく、あの夢の街に足を踏み入れたのである。
Y村には、緊張をほぐすために様々なアドバイスを授けようとしたが、
目の前にあまりにかわいい美女がいたので、俺はうっかり店に飛び込んでしまった。
他の友達も、皆Y村なんかお構いなしに入っていってしまった。
そして40分後。
俺たちは飛田新地の一画にある「闇市」という飲み屋に集結した。
それぞれ自分の思い出に没頭していてY村の話など聞こうとしない。
その中で、Y村はビールを一口飲んでこう言った。
「別に…何にも変わらんなあ」
ああ! この感傷的なひと言は、まさしく自分が初体験した時と同じものじゃないか。
「セクウスとは一体どれだけ凄いものなんだろう」と思っていたら、別に何も変わらない。
そう、確かにY村はこの日、卒業式を終えたのだ。
「正常位、騎乗位、バック。全部やったわ」
照れくさそうにY村は言う。俺たちは人目をはばからず、熱い抱擁を交わした。
「俺、初めてだから入れるのに手間取るじゃん。そしたら女に『久しぶりなの?』って聞かれたよ。
だから『ああ、そうなんだ』って答えておいたわ。初めてだとは言わずにさ」
えらい、えらいぞY村! そのちっぽけなプライドこそ男の証なんだ。
「でもたぶん勘付いていたんだよ、女の子も。
ただ、それでも黙っていてくれたんだよ! きっとそうだよ!」
俺たちはネオンがいつもより少ない大阪の夜空の下、祝杯をあげた。
とはいえY村はそれほど気持ち良くなかったらしい。いわば、肩透かしを喰らったようだ。
でも、怖いのはここからだよ、Y村よ。
セクウスの本当の気持ち良さは、2度目になって現れる。
彼はきっと、これから飛田に通い詰めることになるだろう。
夏には、俺以上の常連さんになっているはずだ。
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